深夜寄席@末廣亭。

深夜寄席@末廣亭。

昨年、ひょんなきっかけで古今亭志ん生の『なめくじ艦隊―志ん生半生記 (ちくま文庫)』と『びんぼう自慢 (ちくま文庫)』を読み、その後、残念なことに先日亡くなってしまった立川談志の『人生、成り行き―談志一代記 (新潮文庫)』を読み、ここのところ落語というものに興味を持ち始めていた。
これまで、落語には全く縁がなくてこれらの書籍を読む方が珍しいのかもしれないが、とりあえずこの2人があまりにも奇天烈な生涯なので、「落語っていったいなんなんだ!?」と、落語という娯楽自体に興味が出てきたのだ。通常であれば、落語から入って噺家のファンになってその著書を読むというのが一般的な筋なのかもしれないが。
で、ありがたいことに自身の生活圏に「新宿末廣亭」という昔ながらの寄席小屋があり、以前は「一度くらいは行ってもいいやね」くらいにしか思っていなかった。そんな程度だから当然なかなか寄席に行くという機会もなかったのだ。
上述した書籍を読んだのち、末廣亭のホームページを見てみると、「深夜寄席」という、若手(前座や二つ目)の噺家が高座に上がるものを毎週土曜日にやっていて、その木戸銭(入場料)が500円なので、お試し価格にちょうどいいということでようやく重い腰を上げてみた。

入場券

「落語なんていまどき人気ないんだろう。しかも若手の話なんて…」とタカをくくって開場時間である21:10過ぎにそこに行くと、予想外の長蛇の列。予約なんてものもやっておらず、当日窓口でチケットを買う仕組みなので、「やばい。もう満席で入れないかもしれない」なんて不安に思いながら列の最後尾について入口まで行くと、無事にチケットを買うことができた。
中に入るとすでに椅子席はほぼ埋まっており、その脇にある「桟敷席」という小上がりに座布団という席に座った。こういう席で舞台や映画を見ることはまずないので、この席の方が却ってありがたい。
開演時間5分前くらいになると、おそらく若手の噺家の方だと思うのだが2名ほど舞台下に出てきて、「それでは、たくさんの方が入ってくださっているので、”膝送り”をしたいと思います!」と客席に告げる。初めて聞いた”膝送り”ってなんだろう?と思っていたら、空いている席を順々に詰めて、あとから来たお客さんの席を作ってあげることだった。なかなか合理的で粋なことをするもんだと感心しきり。
開演時間の21:30になると、ドドンと太鼓の音とともに幕が上がり、最初の噺家、林家ひろ木が登場。落語では前口上を”まくら”というらしいが、そこでご自身の高座後のアンケートの話や、M&Aの話などをおもしろおかしく10分程度して場を温めたらいざ落語へ。ネタは「動物園」というものだった。
落語というのは、1人で何役もやるものだということくらいしか知らなかったのだが、本当にそうだった。(笑)
とっても役(芝居)がうまくて感心しきり。これはひろ木だけでなく、この後に続く噺家も本当に演技が上手だった。
2人目は、柳家ほたるというちょっとぽっちゃりした、かわいい顔の噺家。「幽霊の辻」というネタをしてくれたのだが、中に出てくる婆さんの役が秀逸。
3人目は、柳家さん若というスマートな噺家。ネタは「宿替え(粗忽の釘)」という長屋夫婦のドタバタ劇なのだが、今夜の噺の中で1番臨場感があったような気がする。
トリは、三遊亭天どんというちょっと変わった名前の噺家。談志の著書によれば、師匠からもらう名前を断ることもできるとのことなのだが、なんでこの名前をそのままもらったのか、ちょっと不明。でも、覚えてもらいやすくていいかもしれない。
この天どん、さすがトリなのだろう、まくらからしてドッカンドッカン会場を盛り上げる。深夜寄席だからとやや乱暴なやり方をしたそうだ。テレビだと深夜番組がゴールデンタイムと比べるとやや乱暴なのと同じ感覚なのだろう。
ネタは「初天神」という、父親が息子をお参りに連れて行く最中に子供に翻弄される話。おもしろすぎて、笑いっぱなし。たぶん、今日一番笑ったな。
はじめての落語だったのだが、会場での振る舞いに迷うこともなく、噺の中で不可解なところもほとんどなく純粋に楽しむことができた。こんどはきちんと昼間から、幕の内弁当にビールを両手に鑑賞したいものだ。
もし、落語を見たくなった方がいたら、まずは深夜寄席で試してみられるとよいかと思います。1時間半をたったの500円で笑って楽しく過ごせます。観客は老若男女と多様で、想像以上に若い人が多いことに驚いた。
ぼく自身もまた近いうちに深夜寄席に行ってみようと思う。